テイエムオペラオーの全成績を探れ
階下の「志野」では、いつのまにかオレの初勝利を祝う宴が開かれようとしていた。
今夜は鍋らしいが、いつもと様子が違う。なんだか白くてフワフワしたものが鍋をいっぱいに覆って、グツグツ音を立てて煮えている。
「こらぁ、女将を待たせるんじゃねえよ。鍋が煮えすぎるってさっきから気が気じゃないんだから」
「すいません。忘れないうちに一度新聞見返しておかないと、バカなもんで……」
「きたきた、みんな揃ったわね。なんにしろ、お仕事うまくいったんでしょ? さ、乾杯、乾杯! 今日はみぞれ鍋よ〜、たくさん食べて〜」
「ま、初勝利くらいで浮かれてる場合じゃないんだが、今日は無礼講だな。どんと飲めよ!」
「かんぱ〜い!」
いよいよ生まれて初めて「みぞれ鍋」なるものにチャレンジ。白いものはどうやら大根おろしで、オレが肉があまり得意でないのを知っている女将さんは、キンメダイとカニをメインに、見たこともない豪華鍋を仕立ててくれた。
またそのキンメの白身ときたら、ホクホク、トロトロ……。なんだこの脂の旨味! カニもばかデカイし、あま〜い! ああ、これぞ勝利の味か……。
「フフ、今夜はあんまりしゃべらねえな。食うのに夢中ってか?」
「ハフハフ……そりゃあ藤堂さんとは普段食べてるものが違いますからね。こういうときに食べ貯めしとかないと、今度いつ食えるかわかんない……ズルズル」
「それじゃ、オレがいつもヒドイもん食わせてるみたいだぜ? ……あ、まさかそれで……お前、コソコソここへ、まかないでももらいに来てるだろ!」
オレは危うく魚を喉に詰まらせるところだった。ば、バレてた〜!
「……ハハ、なんで知ってンスか?」
「見ろ、図星だよ! どうりで昨日も、初勝利が近いってポロッとこぼしたら、女将が『じゃお祝いしなきゃ。何がいいかしら、あの子はお肉が苦手みたいだから』なんて言うしよ〜。こっちは『はて、みんななんでアイツの食の好みなんか知ってンだ?』と怪しんでたとこだよ!」
「あら、私そんなこと言ったかしら? ……ごめんね、いけないのは熊さんよぉ。『若いのに肉を食べない』っていつも心配してるから、私もつい……」
「なんだお前、板さんまで気をつかわせやがって。……この、幸せもんが!」
身も心も懐も暖かい夜。
腹がはち切れるほど鍋を食べ尽くし、カウンターから小上がりに移ってゴロリ小休止。今日は貸し切りらしく、客は誰もいない。
天井の格子を見ながらふと考えた。
それにしても、04キャラって、面白い考え方だと思う。いや、的中したからそう言うんじゃない。ごく簡単なようでいて、馬をうまくキャラ付けできるのがいい。藤堂さんは「馬の基本的な特徴をつかむために知っておけ」と教えてくれたけど、今のところ馬券の検討にも役立っている。
これ1本で365日競馬を楽しめるとは思わないが、データを見る際にまず第一のフィルターになることは間違いない。
実はさっき、事務所で1枚の紙をプリントアウトしておいた。テイエムオペラオーの全成績だ。この前聞きそびれた、04キャラ誕生のいきさつをもう少し聞けないかと思ってさ。
あのとき藤堂さんは「1、2、3着にはそれぞれの性格があって、1着と3着は関連が強いが、2着は全く別の性格を持っている」と言っていた。そしてそれを最初に気づいたのが『テイエムオペラオー』の成績を追った時だとも。
……藤堂さん、あの様子じゃまだ酔いが足らないな。もう少し休みながら機をうかがうことにしよう。……ゲップ。