プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

『落ちこぼれ』競馬ファンを拾わないJRAが受けた報い

藤堂さんの『馬券オヤジ追い出し説』は、あまりに唐突な気がしてなじめなかった。

「ウーン、ベテランのおやっさんたちを競馬から閉め出したら、いいこと一つもないですよね?」

「ハハ、言葉が乱暴すぎたな。簡単に言えば、JRAは『 ファンが競馬から落ちこぼれても拾わなくなった 』ってことだろう。昔はさ、新しい馬券が導入されるたびに、JRAは、これでもか、これでもかって買い方に慣れてもらう説明と工夫をしたもんだよ。場内、場外問わず、職員やおねえちゃん達がたくさん配置されて、オヤジ達は何度も聞きながら必死にマークカード方式についていった。ひるがえって、今はどうだろう」

「そうですねぇ、周りもマークカード方式ならもう常識だろ?今さら3連単なんて買い方聞くなよ、みたいな雰囲気かなぁ。でも何度も言うけど、3連単を間違いなく買うのは難しいですって。もし発売機の前で『間違ってます』って機械に言われたら、オレでも焦りますよ。どう直したらいいんだぁって」

「それに、WIN5って、基本ネットで買うんだろ? 買えって言われたって、ネットを使いこなせない馬券オヤジ世代には、何の関係もないイベントって気がするよな。あぁ置いて行かれた……へん!べつにWIN5なんか……ってヘソ曲げるよ」

「なんか、楽しく競馬やってるはずなのに、寂しくなってきますね」

「そう、JRAが間違えたのは『 実際に金を持っている世代にそっぽを向かれるような馬券をおし進めた 』ことさ。オヤジ世代は、年はとっても財布はまだ厚い。若いヤツの何倍も遊びに寛容だ。そこから取らなくて、いったいどこから取るって言うんだ」

「今の若いヤツはやりたいことがたくさんあって、趣味が競馬一本なんて、なかなかいませんからね」

「オレはもうこれで、高額配当をうたった種類の馬券は、出てこないと思う。WIN5で間違いなく打ち止めだ。結果だけ見りゃ大失敗だもん。長い目で見てファンは配当で釣られないことがわかった。これからは逆に行く。当たりやすさで客を引きつける。またそうじゃなきゃ、おかしいはずだ」

「あぁ、宝くじも1等賞金を高くしたり、当たりくじの本数を増やしたり、二刀流で攻めてますもんね。 それを競馬でやるとなると……? なんだろう、難しいな……」

「……そうだなあ、急に言われると……WIN5を3着まで許すバージョンの『プレイス5』なんて、どうだ?」

「ハハハ、面白いですね。もちろん、マークカードで買えるようにね」

複勝を5着まで許可して、そのかわり1、2、3着の配当を増やすのもありだな」

「当たり本数を増やす考え方ですね。それはオレたちにも有利になりますよ」

「まあ、同じ趣旨の『ワイド』の売り上げがその後不振だからなあ……そう簡単な復活劇はないと思うが……やはり……」

「……なんですか?」

「こういう話の根本には、そもそも配当が安すぎるってことがあると思う。控除率として25%も最初に取り上げるのは、そろそろおもしろい興行としては限界に来ているんじゃないだろうか。それがもし15%にでも下がれば、競馬の景色はグッと変わってくるだろうに……」

「馬がゴールまで走るっていう、ある種の奇跡的なエンターテインメントを見せられているんですからね。それで2頭がゴールして5倍って……確かに安いっすよ」

「売り上げの一部は世の中のお役に立っているんだし、配当を増やしてJRAが赤字で困ることなど金輪際ないし。今のファンは確率良く楽しめりゃ、もっとお金を落とすってことに、いい加減気がついて欲しいもんだな」

「高配当、低確率の袋小路に入ってしまわないようにね……」