プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

地方競馬から学べる勝ち馬探し『あ・うんの呼吸』

「それはそうと、JRAの売り上げは芳しくないんですが、なんでも暮れの東京大賞典の売り上げは史上最高だったとか」

「この寒空の下、すごいことだよ〜、それは。26億円以上売れたんだろ?」

「はい、こっちは何か盛り上がる要素でもあったんでしょうか?」

「そうだなあ、1番人気のホッコータルマエが前走のJCダートで負けていたからな。思ったより接戦になるとみて、馬券的な妙味が出たってことかな」

「藤堂さんは地方競馬も行きますか?」

「ああ、地方は面白いよ〜。なんというか、古き良き時代がまだほんの少しずつ残っていてさ。馬券だってオレは地方へ行ったら複勝なんて買わないよ」

「え? 複勝JRA専門ですか?」

「当たり前だよ、地方行って複勝買ったっていくらにもなんないモン。東京大賞典だってたかだか売り上げ26億だろ?中央とは規模が違いすぎて、大きな勝負をすりゃあオッズはすぐに急降下〜。そりゃ自殺行為だ。複勝にドンと賭ける旨味は薄いわな」

「すると、地方では……まさかの3連単とか?」

「ハハ、散々3連単馬券の悪口を言ってきてなんだが、単勝、馬単、3連単が主な武器になるね」

「え〜、地方競馬の何がそんなに違うんですか?」

「そうだな……地方と行ってもオレは一番近くの南関東が主戦場なんだが……まず地方では『勝つ馬を選んでナンボ』という気持ちを強く持つことだな」

「2着や3着ではダメ?」

「というか、どんなにガチガチの人気馬でも軽くチョイ負けするのが、地方の日常茶飯事なのよ。その間隙を突きたいんだ。普通さ、中央だと馬単馬券ってだいたいの配当が予想できるだろ?」

「はぁ、馬連の約2倍とか……」

「そうそう、でも地方では2倍なんて枠に収まらず、ときどき『え!』というような妙な高配当が生まれる。『各馬の実力差がハッキリわかる』と言われる地方競馬では、馬単、3連単が人気馬の頭固定の片側通行でよく売れる。その盲点をついて人気のない方の馬単(裏を返すという)が一度でも網に引っかかると、これがいい馬券になるんだ〜」

「思ったより実力に差がないんですね」

「というより、みんな地方にいる馬だからな、いろんなことが裏で起きているのさ。もう一つは……これは競馬の原点でもあるんだが……」

「お、マル秘作戦ですか」

「フフ、競馬ってのはとにかく『 変化率 』を買うンだってさ」

「『買うンだってさ』って、まるで誰かから聞いたような口ぶりですね」

「そう、タネを明かしちまうと、これは以前も言った、株式相場に関わっていた頃にある先輩から聞いたんだ。とにかく今調子がいいものを探すんじゃない、眠りから覚める直前のものに時間をかけてアプローチするんだ、とな。これをオレは競馬に応用している」

「変化率というと……」

「どの馬も全部で200%の力を発揮できるとする。180%まで調子が上がってきた馬は、たぶん成績も良くて人気もあるが、逆に言えば残りの伸びしろは少ないだろ?あと20%しかない。馬券を買っても100円が120円になるだけ〜」

「はは〜ん、ならば人気がなくて、いきなり100円が200円になるような馬を探せってことですね」

「まあ、そういうこと。地方競馬の新聞を見ればわかるが、Aという馬1頭を除いてどの馬もひどい成績ばかりってときがある。つまりみんな眠ったまま。しかしこんなときにそのAを買おうとしちゃダメだ。今日眠りから覚める新しいスターを探さなきゃ」

「ああ、なんとなくいつもの藤堂さんらしい買い方だなぁ」

「だろ? もっと暖かくなったら一度気休めに地方競馬に行ってみるか。競馬はそういう見方をする方が意外と楽しいもんだよ」