プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

キャラのズレを見逃さない

興が乗ってきたオレたちは「チータラ」「ツナピコ」と次々に開封しちゃって、もうつまみ祭りが止まらない。

 

この調子で、わからないことはどんどん聞いていこう。

 

「ねえ、藤堂さん、確かに先週までの中京は、4型の馬が穴を開けてきたけど、中には1頭も4型が絡まない芝のレースもありましたよ。そういうときは、キャラが使えないってこと?」

「おう、それはいい質問だ。キャラ分析も残念ながら万能の神、というわけにはいかねえ。確かにこの理論には未熟な点もある。しかしだ……一度これを逆の視点で考えてみるか」

「逆……?」

中京競馬場の冬開催は、基本4型を狙うべきだ。それは変わらない。しかし1着から3着まで、なぜか0型、1型の馬ばかりが独占するレースがあった……そう言いたいンだろ?」

「そうです、そうです」

「キャラがズレるこの現象を、オレなら単に『あー外れた』では済まさない。『お、このレースでは何か0、1型が活躍するだけの理由があったのかも』と感じるね」

「ん? どういうことですか」

「もう一度、キャラ分析の基本を思い浮かべろ。0型、1型の馬たちが持つ基本的な特徴を」

「えーと、時計が早い、春と秋、レースのレベルが高い……」

「そうそう、それよ!」

「え? レースのレベルが高い?

「そう、ローカルと言えども、数の少ない珍しい施行条件とか、高額条件のレースには、そこを狙う馬たちがピンポイントで集まる。するとその一瞬だけレースレベルが上がることだってありうる。また中京の芝はタイムがかかるパワー型馬場だけど、小倉や福島の開幕週のように時計が早すぎて、3、4型の馬には馬場が不利に働く日もある。すると当然0、1型が活躍する」

「はぁ、ただ『04キャラ大したことねえな』とか思ってちゃいけないんすね」

「そうそう……ってコラ! 相づち打っちまったじゃねえか!……0、1型の馬たちがあえてローカルで好走するには、それだけの理由があるんだよ!」

「さすが、まだ酔ってませんね、アハハ」

 

 

「……となると、これって逆の場合も考えられますね」

「ああ、レベルが高いはずのレースで3、4型が絡むパターンな。例えば今年のジャパンカップ……」

「え、ジェンティルドンナは文句なく強いと思うけど」

ジェンティルドンナは今年2型でこのレースを勝った。ちょうどキャラの端境に来る11月のG1レースとしては、2型なら標準レベルだ。問題は2着以下さ」

「えーと、……2着デニムアンドルビー、3着トーセンジョーダンですか」

「デニムのキャラは3、4型、トーセンは2型だった。3、4型の、しかも3歳牝馬が、格式あるG1で、2型のG1勝ち馬を差し置いて怪物にハナ差まで詰め寄った……」

「……レースのレベル自体に問題があった、と?」

「これにはいろいろな要素が絡んでいる。外国馬の出走が極端に少ない昨今のJCが、以前のG1のレベルをキープしているのか、とか……まあ、それは今論じることじゃない。少なくともオレは今年のJCを評価していない。タイム的にも平凡の域を出ないし、そもそも2頭の牝馬がワンツーフィニッシュしたレースを、混合G1だからってどう評価しろって言うんだ?」

「牡馬がだらしないんですね」

オルフェーヴルがいなけりゃ、今の残存勢力はこんなものなのさ。ま、とにかくG1レースに3、4型が突っ込んだら、その時点で何かピンと来なくちゃ、次の馬券に生かせないぜ」

 

そうだ、キャラのズレ現象を実際馬券に生かすのは、次のチャンスの時なんだから。んん〜、もっと聞きたい!けど、さすがにもうつまみが切れてきたぞぉ!

「……藤堂さん……おでん食べたくないスか?」

「あ? オレは腹一杯って…………フフフ…………しょうがねえヤツだ、まったく…………下行って何か女将にみつくろってもらえ。オレがそう言ったっていってこい!」

 

ふ〜、これで今夜はなんとかしのげそうだぁ!