プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

みんな気持ちいいほど馬券で負けている

年末のテレビは特番ばかり。

それは競馬界でも同じことのようでして……。

 

「藤堂さん、あの番組知ってます? 『競馬場の達人』っていうんですけど……」

「フハハ、知ってるよ、byグリーンチャンネルだろ。自称有名人が毎回競馬場まで来て、気持ちいいくらい大負けして帰って行くんだよな」

「そうなんスよ。この前、年末スペシャルで、今年一年の回収率ベストテンをランキングしていたんですけど、それ見てオレ、ひっくり返りそうになりました。ホントにみんなすごい負けっぷりなんですよね」

「一日収録しながら、プラス収支にまとめられる人なんているのか?」

「ええ、わずか5、6人なんですけど、今年もプラス収支の猛者はいました。けどあとは、目も当てられないくらいドカ負けするのが通常ですよ。ベストテンに入っても回収率50%そこそことか。みんな金持ってるんですね〜、は〜、うらやまし……」

「あれを公共の電波に乗せたら、目にした競馬ファンは腰が引けないのかと、こっちが心配になるくらいだが……」

「まあ、オッサンがウン十万も負けたところで同情の余地はないんですが、アイドルらしき女性が2、3レースでサクッと10万も負けたりすると、見る目が変わりますよ。金銭感覚大丈夫かって」

「アホ、芸能人をお前と一緒にするなよ〜。はなっからそいつらの金銭感覚なんて、ネジが外れちゃってるさ」

 

「以前の話じゃないですけど、ホント競馬って、勝ちにくいギャンブルですね」

「ああ、競馬場に一日いたいなら、テーマパークにでも遊びに来たつもりで、高い入場料を払う覚悟はしておくべきだな。でもいったんそうと割り切れれば、みんないい顔して楽しく過ごせる空間だと思うぞ」

「まあ、勝とうとしなければ、ねえ……」

「事実、出演者の中にだって、負けっぷりのいい人はいくらもいるじゃねえか。どんなに負けても少しもその金額にビビらず、ニコニコしている御仁が。JRAの片棒担いで競馬を楽しむなら、ドンとこいって感じで遊ばなきゃ。テレビに呼ばれて手が縮こまるくらいなら、最初っから依頼なんか受けるなってことさ」

「それでも受けちゃうのは、テレビの魔力なんですかね。あそこでいいカッコ出来たら最高だぞっていう誘惑……?」

「フフ、もしもオレが出演するなら……」

「どうしますか?」

「もちろん、一日一勝負。しかも複勝、500万」

「……うーん、いつも通りですねぇ。その金額にはみんなビックリするだろうけど……」

「そうだな、収録時間が短すぎ、か?」

「ええ、プロデューサーから『お願いだからもう1回、1万円でもいいから遊んでください』って泣きが入るかもしれませんね、アハハ」

「なんにしろ、楽しそうでいいじゃねえか。オレたちとは丸っきり反対の競馬、陽のあたる別世界だな……」

 

ホント、こういう番組を見ていると、全く同じことをしているのに、裏と表って何にでもあるんだな、と強く感じる。こちら側に来たことを実感させられる一瞬だ。