強い馬は海外で走って自分の実力を誇示すればいい
世間はどうやら仕事納めらしいが、この二人は暇にまかせて夜な夜な競馬の話題で盛り上がっている……
「有馬記念のオルフェーヴルを見て感じたんですけど、来年からあの馬いなくなっちゃって、日本の競馬は大丈夫かな?」
「フフ、8馬身差だからな。2着だって長期休養明け2戦目のウインバリアシオンだろ?エイシンフラッシュは引退、ジェンティルドンナは基本的に中山では走らないし、牝馬だから成績次第ではそろそろ突然の引退発表、なんてこともあるだろうな」
「3、4歳世代の王道路線に、いい馬いませんね」
「ああ、かといって、5歳になるゴールドシップはいつ走るかわからず。ウインバリアシオンは脚に爆弾を抱えたまま。一年間トップ集団で走ることは無理だろう。驚異の5頭出しにもかかわらず、3歳のラブリーデイまで送り込んだ池江厩舎は、この馬で来年以降の勢力図を頭に描くことが出来たと思うよ」
「抜け目ないですね、大きな厩舎は」
「それが、経営者、ってやつさ」
「オルフェーヴルのラストランで、結局日本の競馬はオルフェーヴル1頭が支えていたことに改めて気づかされました」
「調教を見たときに、アイツだけは普通に仕上がっていればいい、と言ったのもその辺を考慮したからなんだが……本当に今回のオルフェーヴルは、出来としては『中の中』程度だったと思う」
「うーん、それであの圧勝ってことは……」
「今のオープン馬のレベルが相当低いってことだ」
「名馬はポツポツ出ていますけど、ね」
「ああ、みんなたった1頭のスーパースターに目を奪われている間は幸せなんだけど、いなくなったときに強烈な喪失感を感じるというか……」
「お、それは『オル・ロス』ですか?」
「なんだそりゃ?」
「今年、朝ドラ『あまちゃん』が終わったあと、寂しくて仕方ない人のことを『あまロス』って呼んだんですよ」
「で? 『オルフェーヴル・ロス』か? くだらねえ!」
「来年、競馬場で聞くかもな……」
「聞くか!そんな、にわか造語なんて!」
「ハハ、とにかく、ずっと海外にいたオルフェーヴルが帰ってきて、日本の馬たちの凋落ぶりがハッキリしちゃったんですね」
「ああ、ここ2、3年とくに目立つんだけど、全部の馬たちがすこ〜しずつ弱体化している。日本で競馬を見ているだけじゃ気づかないのがもどかしいんだ」
「すると、来年のG1を勝つ馬でも?」
「大いなる『内弁慶』。『井の中の蛙』でしかないだろう」
「そういう評判を払いのけるためには?」
「馬には繁殖っていう大事な仕事がある。牡馬でも牝馬でも自分の価値を高めようとするなら、やはり同じ世代を生きた馬の中で最も優秀だったという看板が必要だ。それには海外馬との闘いに勝つしかない」
「でも日本で強かった馬は、日本での競争馬作りに適しているとも言えませんか?」
「それも一理ある。しかし、実際に生産に関わる馬産地の人間はもう薄々気がついているはずだ。馬の相対的なレベルが下がってきたこと、オルフェーヴル後の馬たちにあまり魅力ある存在がいないことに。そんな馬たちから将来生産される仔馬が、買う側から見て果たして魅力ある商品になるか?」
「……そうか、今は大金持ちの王子様たちが作る馬も日本で走っていますからね。負けちゃいそうだな……」
「海外遠征が当たり前のことになってきた昨今だが、ここからはしばらく成績が伴わない冬の時代がやってくるだろう。JCでも外国馬の復権があるかもしれない。それにめげず、またオレたちファンも辛抱強く、海外遠征した日本馬の活躍を心待ちにすることにしよう……」