人気がなくても買いたいと思った馬にはなぜか一流騎手が乗っている
騎手談義はまだ続く……。
「んじゃぁ、藤堂さんの買いたい馬に(表現は悪いけど)パッとしない騎手が乗る予定になったとします。その時点で、勝負はおあずけですか?」
「うーん……そうだなあ、そういうことってあんまりない……か」
「え、気にせず馬券を買っちゃうってこと?」
「いや、そういう意味じゃなくて、自分が勝負しようと思う馬には、だいたい一流騎手が乗っているなぁ」
「うわ、すっごい自信だ!」
「ま、きちんと調べた訳じゃないけど、少なくとも『今日は騎手がヘタに乗って負けた』と思うことは、この商売を初めて以来一度もないね」
「騎手に文句言いたくならないのか……」
「ハハ、そんなたいそうな! 騎手に責任なんてないだろ? 勝ち負けの責任は全て自分にあるし、逆に言えば、今日は騎手に助けられて勝った……と感謝したこともないぜ」
「はあ、そういうことか。でも買うと決めた馬にいつも一流騎手が乗っているのは、気分がいいし、偶然じゃないですよね?」
「そうだなあ、それだけは不思議と言えるか……な? いや、そうじゃないな」
「……?」
「さっきも言ったように、オレは騎手というファクターは人並みにしか検討していない。トップ10に入る騎手が乗ってくれるなら素直にうれしいよ。それが馬券を買う主な理由にならなくても、だ」
「ふんふん」
「しかし、こうも言えないだろうか。オレは『騎手』とは異なる切り口から狙い馬を絞り込んでいた。しかし最終的に選んだ馬にはトップジョッキーが乗っていた……これって、もしかして正解にすごく近づいているんじゃないか、と」
「……」
「オレは馬のデータだけをじっと見ているはずだった。しかし無意識のうちに騎手の欄からも情報がインプットされ、ふと確かな答えを得たかのように安心した……そして頭脳が買えとゴーサインを出した……こんなところかな?」
「むむ、それをオレたち素人は『決断力』『勝負強さ』と呼んでいるのか……」
「それはわからんが、狙い馬の選定には、一つより二つ、二つより三つの買い材料があった方がいいとオレはいつも思っている。お前に04キャラの他にも、ハミだとか、調教だとかを見ろと教えるのも、そのためだ」
「なるほど……」
「……オレは馬と同じくらい、人の動きをいつも注視していたのかもしれない」
「人の動き?」
「そう、厩舎サイドの考えだ。馬をどう仕上げるか、馬具をつけるか、レースの作戦はどうするか……その中の一つが、騎手を誰にするかってことだ。人気がない馬に一流騎手が乗るのに、ただそのまま漫然とレースを迎えるなんて、この世知辛いご時世に、もったいなくて考えられんことだ」
「何か秘策を講じてくる……」
「そんな大げさでなくても、厩舎スタッフがこの馬をあきらめていないという意思表示には取れる。その結論に、騎手を見ていないオレが異なる視点から到達できた……だから心の中の自分が『思いっきり買え!』と後押しするのかもしれないな」
「一流騎手はお守り代わり、なんですかね」
「ハハ、少なくともオレにとってはそうらしい。いいことに気づかせてくれたな。ありがとよ」
藤堂さんの頭の中は、ものすごい情報の砂嵐が渦巻いているようだ。