プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

伸び盛りのジョッキーは目に眩しいけれど買うのは超一流ジョッキーに限る

話題は競艇選手から競馬のジョッキーへ移る……。

 

「そういえば藤堂さんって、馬の狙いは穴党ですけど、騎手は腕の確かな人を買いますね。このところ買った騎手と言えば……」

「……えーと、この一か月では……福永、丸山、ムーア、ムーア、最後に北村宏か……」

「……ムーア好きでしたね。ほかに騎手の好き嫌いはあるんスか?」

「まじめに考えたことないな〜。相性のいい騎手はいるけど。福永、川田はいいね。美浦だと蛯名、北村もいい。外人騎手はどれもフラットな立場。若手は時と場合によるかな〜。相性の良くないのは……ってそんなの言えるか!」

「アハハ、じゃあ、若手や渋いところで腕を買っている騎手は?」

「東だと若手では、大野、吉田隼、ベテランなら柴山あたり。彼らなら、ちゅうちょなく勝負する。西では松山、菱田、ベテランだと松田なんてのも注目してるぜ」

「へえ、まだよく聞いたことがない騎手もいるなあ……」

 

「オレはまず馬ありきの予想だから、残念ながら騎手という予想ファクターは二の次になる。しかし、オレの狙い馬がどんなに人気がなくても、一流どころの騎手が乗ってきたら『この馬はそれに恥じない実力を持っている』と考えるようにはしている」

「うまい人に騎乗依頼するには、それだけの理由がありますよね」

「ん、まあ、時にはやむにやまれず、断れず、ってこともあるがな。でもたいていの場合は馬のいい所を十分引き出してもらうために、一流騎手に頼むモンだろ?」

「それなのに、人気がないときは、絶好の狙いになる……」

「まあ若手だって捨てたもんじゃない。人気薄の若手が一か八か馬群を割ってくるシーンは、その時は誰が見てもおもしろいもんだ。けど反面、勉強中のアンチャンでもあるから、荒削りで再現性がない。『二番が効かない』とでも言うのかな」

「いつも確実じゃないんですね」

「ああ、反対に経験を積んだ福永クラスになると、いい意味で『何をしてくるかが見える』。つまりオレたちが望むとおりに乗ってくれる。これは馬券を買う側からすると、とても安心できるんだ。さらに人気がない馬に一流ジョッキーが乗ると、まず間違いなく勝つための最短ルートをたどる。一つでも無駄な動きを省いて、な」

「そうか、一流ジョッキーの動きを見るだけでも、馬場のこと、馬のこと、勉強になりそうですね……」

 

「11月の京阪杯なんて、まさにその典型だった……。内しか伸びない芝コースの短距離戦。道中すんなり内を通れる内枠の馬を狙う以外あり得ない。3枠までに入った一流ジョッキーはデムーロ、川田、福永のみ。他の外人騎手や岩田、武豊らは外の差し馬。こうなりゃレースでデムーロや福永が狙ってくることは、誰の目にも明らかだ」

「内ピッタリで最後チョロッと差して勝つ……」

「ま、言うだけならやさしいが、福永はさらに、追い込みに近い差し馬のスギノエンデバーを5、6番手で先行させた。前を通るじゃまな先行馬を1頭でも減らしたかったんだろう。また自分ならそうやって乗れるという自信もあった……テレビでこれを見ていたオレは、まずこの『戦法』に納得したね」

「結果が出ていないうちに……ですか?」

「そう、結果でなく、過程に納得した。ファンに自らを納得させるのが、一流の証じゃないかな」

「ふーん、確かに馬券買った後に騎手に向かって『なにやってんだあー!』って叫びたくないですからね」

「アハハ、その通り。それをさせないのが超一流のアスリートなんだろうよ……」

 

 来年は騎手を見る目が変わってきそうだ。