プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

競馬でもレース後の騎手のコメントがすぐ聞きたい

今日から新年5日の中山金杯京都金杯まで競馬はなし。『陸に上がったカッパ』じゃないけど、藤堂さんは珍しく競艇のチャンネルを見ていた。

 

「……ああ、これ、いいな……」

「え、藤堂さん競艇もやるんスか?」

「いや、そうじゃねえけど……これっていいと思わねえか? 競艇って レース後すぐにテレビの前で選手本人にインタビューできる んだぜ」

「ああ、競馬ではそういうことないですね」

「まあ、昨日の池添くんみたいに、G1の後ならできるんだろうけど、他のレースは当然ない。雑誌や公共の電波に乗ってこちらに届くまでが遅すぎ。もうその時点で新鮮味がないよな」

「プロ野球は、ホームラン打ったらすぐにインタビューありますね」

「ハハ、野球や相撲はギャンブルの対象じゃないけどな。こういうギャンブルの当事者がレース終わってすぐにテレビの前でコメントしてくれるのは、ファンにとっては収穫が多いよ。勉強にもなる」

「新聞や雑誌のような活字とは違いますね」

「ああ全然違う。まだ選手の頭が完全に冷静になっていないから、正直で直感的なコメントが出てくるね。記者とか誰か他人の手を経て出てくる話って、どうにでもサジ加減出来ちまうだろ? ……競艇って、どうしてこんなことができるのかなあ」

「うーん、逆に言えば、競馬でどうしてできないか……ですか?」

「……競馬は騎手一人がすべてじゃないから……だろうか? たしかにレース中は騎手の責任が大きい。とはいえ競馬は馬が走るんだから、普段馬を扱う調教師、助手、厩務員の責任も無視できない。騎手が先走っていろいろコメントすると、多方面に影響が出るんだろうな」

「そうですね。相方の馬はしゃべることが出来ないし……」

「馬主の力が強い……こともあるだろうな」

「……ああオーナーかぁ…………ハハ、この選手おもしろいスよ。舟券買ってくださいって自分でアピールしてるし」

「フフ、競艇ではよくあるみたいだぞ。よっぽど自分の調子がいいのか、もっと競艇界全体の売上のことを考えているのか……」

「いずれにしろ、オレ、このシステムはいいと思います。なにか選手とファンの距離が近い気がしますよ」

「なるほど、今の時代の競馬初心者には、こういう情報の発信がうれしいんだろうな。確かに負けたときのコメントなんて、誰もしたくはない。だが画面の向こうに何万人ものファンがいることを考えれば、そこにはいつも、自ずと説明責任のようなものは存在するのだろう。それは騎手に限らない。負けてがっかりしているのか、明日こそがんばろうとしているのか、その表情だけでも見たいのが、本当の競馬ファン、なんじゃないかな」

「オレ、ここ2回負けたから言うんじゃないですけど、いつもレースの結果に納得したい自分がいるのは確かです。不利があったり、馬が動かないことがあるのは十分理解してます。でも聞きたいことが闇から闇にスウーッと消えていくような、またそれが競馬なんだという暗黙の了解があるなら、オレたち初心者は心から競馬を応援できません」

「そうだな。折にふれ『言った、言わない』『アウト、セーフ』の水掛け論になりやすいのが競馬界だしな。こんなものか、と長く凝り固まってきた競馬とファンとの微妙な距離感。それをもう一度見つめ直すためにも、お上には情報の開示の方法に気を配ってもらいたいが……」

 

テレビ画面には、背筋を伸ばす一流競艇選手の姿が映っていた。自分の結果に強い責任を持つんだという心構えが見え隠れして、眩しかった。