複勝は3連単馬券無視オヤジの受け皿なのか
「なんだ? わかったことって」
「3連単馬券が当たらないからこそ、みんな簡単な複勝馬券に戻ってきているんじゃないですか?」
「ハハ、それはちと飛躍しすぎかもな〜。確かにここ20年で、馬券の売り上げは4割減っているが、馬券全体に対する複勝の割合は3倍に増えている。しかしこれを金額ベースで見ちまうと、そうでもない……」
「いま、計算しますね。
売り上げピークの平成9年 40161×0.028=1124.5
最近平成22年 24356×0.064=1558.8 (億円)
つまり複勝の売り上げは、38.6%のアップですよ!」
「……ウーン、金額ベースでこれだけ健闘しているとすれば……」
「あながち、推測は外れていませんよ。この『複勝微増現象』が始まったのが、3連単導入翌年の平成17年!しかもそれ以降、右肩上がりで1年たりとも複勝の割合が下がった年がないんです」
「……その平成17年から見ると、複勝の売り上げはさらに倍にふくれあがったのか……こいつは驚きだな」
「複勝と3連単って、もともとお互いに相容れないもの同士だと思うんです」
「ほぉ、どんなふうに?」
「例えば、買い方の違いです。複勝は昔からある馬券で、買い方も簡単、誰でも気軽に買えます。初心者が気になる馬を買おうと思ったら、真っ先に思いつくのが単勝と複勝です」
「……」
「反対に、3連単は、買い方が難しいです。マークカードを駆使して間違いのないように買うのは、ベテランでも苦労します。携帯端末も同じようなもんです。おじいちゃん世代にはとっつきにくいし、自分から喜んで買うとは到底思えません」
「……つまり」
「ファンは高い配当を夢見ていますが、しょせん難しいことはしたくない。だからできないことはしない。他にも自分の得意や楽しみはあるぞって感じでね。もしかしたら3連単って、史上初めて買う人を厳密に選別し始めた馬券なのかもしれません」
「ハハ、そこまで複勝馬券を褒めてくれて、うれしく思うぜ。いいところをついている。しかしやはり冷静に見ると、複勝の躍進ぶりを全て、3連単の負け組を吸い取っているからだと説明するのは難しいだろう。それなら、複勝でなくワイドや馬単にだって一度戻ってもいいはずだからな」
「あぁ、そうか……回帰現象が見られるのは、なぜか単勝と複勝だけなんですよねぇ……」
「でもな、馬券ファンの間で何か大きな波が起こりつつあるのは確かだ。……最近オレは久しぶりに昔の仲間と場外売り場の近くで会った。自然と競馬の話になったんだが……そいつが言うには『最近場外の中がおもしろくねえ』っていうのさ」
「え? どういうこと?」
「昔に比べて、静かだって言うのよ。『獲ったぁ!』とか『そのまま、そのまま!』とか、定番の叫び声が聞こえないんだと」
「はあ、でもオレが買いに行く場外も、そんなもんスけど……」
「そうか、お前は新しい世代だから、昔の場外を知らないんだな……ヤジ、ケンカ、怒号、雄叫びが渦巻く独特の世界がアソコにはあった……。今はそれが全くなくて、隣のオヤジが当たったのか、外れたのかさえ、よくわからんのだそうだ」
「いいじゃないですか、クリーンで。オレはその方が仕事しやすいな」
「ハハ、ところがオヤジ世代の馬券師は、それじゃあ気持ちがちっとも盛り上がらないんだと。だから熱くなって金を突っ込むこともない。クソーっていう悔しさもイマイチ湧かない。仕方がないから牛丼でも食べるかって、食い物にばっか金を使って、太って仕方がないんだとさ!」
「あーあ、なんだかこっけいな話ですね」
「オレはさ、やっと、この話のキモがわかったよ。いま競馬界は、こういう古い世代の馬券オヤジをふるい落としにかかっているんだ」