2013 朝日杯フューチュリティS(G1)
結論から言うと、オレの大事な緒戦はあっけなく黒星で終わった。
「が〜〜、悔しい〜〜!なんで2頭買わなかったんだぁ!」
「ま、そう自分を責めるな。狙いは間違っていなかったじゃねえか」
そう言われても、スローモーションのようにゴール前の映像が甦ってくる。この日オレは中京競馬場に狙いをつけた。前日までのレースを見て、3、4型がハマりそうな芝のレースをピンポイントで買おうという作戦だった。
中京7Rをスルーした後の9R。500万下条件の芝1200M。ここには4型キャラを持つ馬が2頭しかいなかった。5番のアンジュエと、18番のヴィオラーネだ。藤堂さん的に言えば「無理せず2頭とも買っちまえ」だし、それも可能なんだけど、オッズを見たオレは、もし5番のアンジュエが的中しても複勝の配当は意外と安いなと考えた。
5 アンジュエ 単17.7倍 複3.4ー4.4倍
18 ヴィオラーネ 単26.3倍 複5.7ー7.5倍
つまり、一番低い配当で決まれば340円にしかならない。そう考えてしまうと同じ4型なら最低でも570円配当がある18番を買ってみたくなる。
これが前日藤堂さんの言っていた「 複勝5倍のプレッシャー 」なのかもしれない。「配当は天からの恵み」これも藤堂さんに言われていたのに。今となっては、最初から狙い過ぎてかっこつけていた感じ。
このレースは思った通り大波乱になり、5番のアンジュエが3着だったが、18番のヴィオラーネは僅差の6着だった。レース後もっと悔しかったのが、アンジュエの複勝が420円もついていたことだ。皮算用なんかしたのがまずかったか…………オレがすっかりしょげていると、藤堂さんが静かに語り始めた。
「……買い方はそれでいい。狙いのレースまでよく検討して、ドンと1頭に絞って1万円を突っ込み、まあまあの結果だった。次への課題とすれば……」
「なんですか」
「昨日は調教の話をしたが、今日は中京の芝の状態について話をしとくか」
「芝の状態?時計がかかるとか?」
「ウンウン、まあそれも関連するが、先週までは勝ち馬が通ってくるコースは決まって外側だった。これを外差しの効く馬場、なんて言うがな」
「……外差し……」
「しかし昨日の愛知杯を見て、オレは『あれ?今日は思ったより内側から勝つ馬が出てきたな』と感じた。勝ち馬は3枠で、道中スルスル枠なりで上がってきて、最後も外を回すことはしなかった。先週までなら差し込んでいたコースの……ゴールデンナンバーとか、コウエイオトメとか……大外の差し馬たちは最後今ひとつ伸び悩んだ。というか、内側が残りやすかったんだろう」
「でも、使い込んでいる芝コースの状態が、また良くなることなんて……」
「んまあ、JRAが何をしているかは知らねえ。例えば馬場にローラーをかけて荒れた芝コースの内側をきっちり固めれば、あと1週くらいは持ってしまうんだろう。仮にそういう『馬場のメンテナンス』を内緒でされたとしてもだ……気づかなきゃ、勝負にはならねえな」
「……今日は内枠のアンジュエが買いだったんですね」
「競馬には負けの数だけ、理由があるそうだ。負けに不思議の負けなし……って、これはノムさんか。競馬じゃなかったな、アハハ」
またひとつ、オレの前に立ちふさがる競馬の壁。
「……? そう言えば今日、藤堂さん馬券買ってませんね?」
「え、あ、オレ? 買ったよ」
「え〜〜、だってオレ1日中京見てたのに、1回も買ってくれって言わなかったじゃないすか」
「お前があんまり真剣で悪いと思ってな。競馬は中山も阪神もやってるもん」
「で、結果は?」
「いつもの通り。珍しくG1で馬券買ったけど」
「アジアエクスプレスの複勝ですか!あれはてっきりダート馬かと思ってたのに。ふあ〜ぁ、やられた……」
「むふ、貫禄勝ちだね。天下のライアン・ムーアが芝のG1でダート馬に乗る訳なかろう?考えすぎだよ」
「ああっ!もう! 2倍悔しいよ!!」
「んじゃ、オレはそろそろ『志野』に行って1杯…………ああ、そうだ、そこのブタの貯金箱に100円玉くらいは入っとるぞ。貸してやってもいいがな」
…………ハイ、お借りします。