2013 愛知杯(牝G3)
……
藤堂さんが風呂から戻ってきたみたいだ。
「…………とくりゃあ……♪……フフーンだ……♪……」鼻歌も出てずいぶんごきげんだね。
「はー、サッパリサッパリ。あとでひげも剃るか……お、今日の愛知杯見たか〜」
「あ、お帰りなさい。なんか、手のつけられない荒れ方でしたね」
「ああ、サウナのテレビで見てたけど、複勝すべて4桁配当だって?いいねえ、当たったヤツは。オレッチも今日馬券買っちまえば良かったな、パパっと!」
「オレ新聞買ったんスけど、見ますか?」
「見なくても何が起こったかくらいわかるぜ。まずキャラ分けしてみるか」
1 アカンサス 01
2 トーセンソレイユ 0
3 リラコサージュ 013★
4 アロマティコ 014★
5 フーラブライド 0
6 オールザットジャズ 3
7 ノーブルジュピタ 01
8 スピードリッパー 013★
9 マイネイサベル 03
10 ゴールデンナンバー 0
11 シャトーブランシュ 0
12 マコトブリジャール 14
13 スマートレイアー 01
14 ウエスタンレベッカ 2
15 セキショウ 014★
16 コスモネモシン 04
17 コウエイオトメ 0
18 キャトルフィーユ 04
「……うわー……やっちゃいましたねー」
「だろ? 見たか!04キャラの威力を!なーんちって」
「勝った5番のフーラブライドは仕方ないけど、2着18番、3着16番、2頭とも「4型」の馬じゃないすか!」
「それだけじゃねぇ。ローカル牝馬限定重賞にふさわしいキャラ「4型」の馬がここに何頭いる?人気馬はほとんどキャラがマッチしていねえんだ。こんな馬何頭いたって怖くねえ。買わなきゃいいんだから。おー、くわばらくわばら……」
「4型を持ってる馬は……5頭だけ?」
この難解な重賞がたったの5頭立てになるとは……。
「しかしな、実際には5頭の中からどの馬を買うのかは、難題だぜ」
「確かにオレもそう思います。1頭に絞るのはかなり……」
「まずアロマティコは人気でオッズが足りねえ。これはすぐにオミット。マコトとセキショウは逃げ馬同士。お互いケンカする間柄だしなあ。となれば!」
「はー!コスモネモシンとキャトルフィーユだけ残った!」
「しかしオレならコスモネモシンを買うね」
「どうしてですか?」
「オレの馬券辞典には『格下馬』より『格上馬』って書いてあるから。つまりフーラブライドやキャトルフィーユのような格下からの挑戦よりも、すでに重賞を勝っているのに忘れられているコスモの方を買いたいということさ。もう一つは調教だ……」
「オレ調教の見方わかりません」
「気にすんな、オレだって調教師じゃねえ。そうじゃなくて、このコスモネモシンって馬は、気に入らないことがあると調教を『お休み』しちゃう面倒な馬なんだ。それは前走も前々走も新聞に書いてあった」
「ふんふん」
「ところが今回、陣営のコメントは『中間は前走よりも順調に稽古を積めている』って出てる。しかも調教欄を見れば、美浦の坂路を51.9秒『好気合いで余力十分』7点。こりゃ並みの馬よりずっと調子がいい証拠。調教さえまともにできれば、牡馬相手でもG3を勝つ馬だ。ドンと行きたいね」
「競馬っていろんなことが、少しずつ関わってくるんですね」
「こんなことは買いながらいくらでも覚えられる。ひとつ大切なことは……前にも言ったけど……4型馬のボックス買いなんてバカな真似だけはやめとけよ。痛い目にあってるオレが言うんだからな」
「わかりました。……なるほど奥が深いな……」
「さ、お前も早く風呂行ってこい。明日の勝負に向けて『身を清め』なきゃな」
「す、すこし緊張してきた……」
「ワハハ!武者震いか? バーカ、まだ全然早いよ!!」