プッシュ屋稼業 競馬残日録

〜修行編〜 世の中にヘンテコな稼ぎ方は数あれど……

馬をキャラで分けろ

「ふーっ、いけねえ酔ってきたあ〜、聞きたいことがあるなら早く聞いとけよぉ〜」

そんなふうに言ってても藤堂さんは大丈夫。ここからまだしっかり飲むんだし。酔ってる振りして頭脳の方は全然クリアなんだ。

「やっと競馬の話になったよ……んじゃ、今日のメインレース、買った馬の根拠を教えてください。オレも来週から馬券買わなきゃいけないんだから」

「フフン、いきなり買う気満々のようだが、頭でよく理解できたらオレのやり方で買ってもいいってことだぞ。買い方が違ったっていっこうにかまわない。競馬は人それぞれの結論があっていい」

「あぁ、的中馬券は1通りじゃないですからね」

「そう、今の若いモンは……誰が教えたかしらねえが、正しい道は一本きりだと思って、人と違うことをしたがらない。いいじゃねえか、人生、全部の道を試すことはできないけれど……」

「はい、もう、人生談義は結構です。ほら早く解説を……」

「分かってる!お前がそうやって話を振るからだなぁ、こっちは……」まだブツクサ言いながら、藤堂さんはくしゃくしゃになりかけた東スポの競馬面を開いていく。そこには意外ときれいな文字で、赤い数字と星印が書かれている。

 

f:id:nativedancer:20131203160458j:plain

 

「……なんすか、これ?」

「 馬のキャラ分け。どの馬がどんな特徴を持つ馬か一目で分かる」

一瞬、ホントにガッカリした。なにこの人キャラとか言ってるし。うさん臭さ100パーセントじゃん。馬に話しかけて聞き込んだとでも言うんだろか。

「馬のキャラが分かるんですか?」

「分かるよ。いつ走るか、どこで走るか、今日はお休みか、勝負気配か、そんなことまで分かる」

ああ、優しいとか怒りっぽいとかそういうんじゃないのか。競争馬だもんね。よかった〜、藤堂さんが動物と話ができる不思議な能力の人じゃなくて……。

「ふーん、数字は……0から4まで使うんですね」

「ああ、それと星印な」

「この数字だけで、6番の馬を買ったと?」

「んまあ、その馬は前から買いたかった馬なんだ。知ったかぶりするわけじゃないが、ここ1年で、2、3度は買ったかな〜、やられたけど。でも今回その馬が星印になって出てきた。間違いなくこれは買いだ。ホントに最後と思って目をつぶって買った」

「はぁ、星印は買うんですね。しかしこれは誰でも目をつぶりたくなる馬だわ……」18頭中単勝で16番人気だもん。

「かっこわるい話をすると、3番の馬もポケットマネーで買った。けどキャラ分けで説明するオレにとっては買わなくていい馬だった。反省、反省……」どうやら噂通りの連戦連勝という訳ではないらしい。

「このキャラ分けには時間かかるんですか」

「いや、全然。競馬場に行ってからでも間に合うよ〜」

「専門知識がいるとか」

「いや、新聞に書いてあるから」

な、な、な、なにい?

「あ、東スポじゃないとダメなんでしょ」

「いや、どの新聞でもいけると思うけどなあ」

うーむ、いったい何を見ているんだろう。教えてくれると言うんだから、オレも早く聞けばいいものを、熱くなると自分の世界に入り込んでしまう癖があって、なかなか話が前に進まない。ヒントを小出しに聞いてしまう!あ、これひょっとして、藤堂さんに操られているのか?この酔っ払いに!

「降参です。なんなんですか、これ?」

ちょっと冷静になったふりをして(ホントは悔しくてアツアツ!)話を前に進めてみた。

しかし藤堂さんは「おまえさ、競馬ってどんな競技だと思う?」なーんて禅問答のような話をしてくる。イーッ、オレはそういうのが一番苦手なのに!

「……うう、一番強い馬を決めてるんじゃないですか」

「おお、意外といい答えだな。一番強い馬は、ある一握りの馬たちの中から決めるンだよ。でも大多数の馬は、そんな競争にぜーんぜん参加していない……まぁいいや、んじゃ少し教えるか……」いつの間にか杯からグラスに器を変え、藤堂さんは冷やのまま純米酒をグッグッと飲み干してつぶやいた。

 

「 第1の奥義 競争馬が持つ0から4までのキャラ を」